2025年9月に日本橋人形町の一角にオープンしたSOIL Nihonbashi Hotel。
ホテルの設計をした建築家・武田清明さんからのお声がけにより、私たちFARM CANNINGはホテルプロジェクトのランドスケープチームの一員として、植栽のコンセプト作りから参画させていただきました。
それから1年。
ホテルは開業してから高い稼働率を保持するほど大人気のホテルとなり、国内外からのゲストが訪れ続けています。
そして植物たちは酷暑を乗り越えられるのか、どのように育っていくのか、私たちの当初の心配をよそに屋上菜園ではたくさんのハーブが育ち、各階の植栽も大きなトラブルもなく枝葉を伸ばしてくれています。
1周年を機に、改めてホテルの立ち上げスタッフ、武田さん、そして私たちランドスケープチームがこの場所に込めた想いをご紹介します。
そこから、都市での自然とのつながり方を考える、小さな種を撒けたら嬉しいです。
座談会は2025年9月にSOIL Nihonbashi Hotelで行いました
参加メンバー:
• 建築家: 武田氏、岡田氏(武田清明建築設計事務所)
• ホテル運営: 堀口氏(株式会社Staple)
• ランドスケープチーム: 細野氏(株式会社 バイオカルチュラル・デザイン)、池上氏(株式会社イケガミ)、西村(FARM CANNING)
西村(FARM CANNING): 今回は、SOIL Nihonbashi Hotelのランドスケープがどのようなストーリーで出来上がったのか、皆さんの思いをコラムとして残したいと思い集まっていただきました。武田さん、そもそも最初はどのような構想だったんですか?
武田(武田清明建築設計事務所): 東京のど真ん中のホテルなので、周囲の景色が人工的ですよね。だからこそ「自然」が必要だという直感は初期からありました。ただ、具体的にどんな緑にするか、最初は解像度が低かったんです。そこで、信頼できるランドスケープチームの皆さんに声をかけました。
細野(PLANT ABOUT): 最初は東京都のガイドラインにあるような「在来種」による緑化も検討しましたよね。でも、この小規模な空間でそれをやると、少し無理がある。そこで議論するうちに、「日本橋の住民が軒先で慈しんでいる植物こそが、この街の在来種ではないか」という話になったんです。
池上(株式会社イケガミ): そう。自然の原理ではなく、人の手が加わった「人間の原理」による緑(路地裏園芸)をコンセプトに据えたのは、非常に面白いアプローチでした。
岡田(武田清明建築設計事務所): 実際に街を歩いてリサーチしたら、お蕎麦屋さんの軒先にあるような植物が100種類も見つかって、それをマップにした時の説得力はすごかったです。
堀口(株式会社Staple): 私も途中から参加しましたが、近所のラジオ体操仲間のおじいちゃんやおばあちゃんが「これ持っていきな!」とプランターを譲ってくれたのは驚きました。植物を通じて、街の人とリアルに繋がっていく体験がすでに始まっていましたね。
西村: 屋上の「エディブルガーデン(食べられる庭)」についても紆余曲折ありましたね。一時はコストやスペースの関係で計画から消えかけました。
堀口: そうでしたね。でも「宿泊者が植物に触れられる体験こそが大事だ」という議論になり、復活しました。
西村: 私がかつてデンマークで見た、コミュニティを育む屋上菜園のイメージを共有したとき、運営の沼田さんと「これだ!」と盛り上がったのを覚えています。
堀口: 今では、屋上で育てたフレッシュバジルを1階の「Pizza Tane」で使っています。エレベーターにバジルの野生味あふれる香りが漂うのは、このホテルならではの贅沢です。お客様が自分でハーブを摘んで料理に乗せるという「手触り感」も好評です。
池上: これからの課題は、この「雑多な美しさ」をどう維持するかですね。綺麗に整えすぎず、でも清潔感を保つ。これにはスタッフの皆さんに「植物を好きになってもらう」ことが一番の解決策です。
武田: 最後にモックアップを作って検証した「T作戦」も功を奏しましたね。建築と植物、そして街の文化が、純度高く融合した素晴らしいプロジェクトになったと思います。
岡田: チームのみんなで寄り添って作り上げたこのプロセス自体が、僕にとっても大きな財産になりました。
今回のプロジェクトで私たちFARM CANNINGは、ルーフトップガーデンで宿泊者の方がどのように過ごし、自然と触れ合う宿泊となる「体験のデザイン」を主にお手伝いさせていただきました。
私たちが目指したのは、建築家の武田さんを筆頭に、単にビルを緑で飾ることではなく、土壌や植物を起点としたローカルとの接続。
その一つの形として作ったのが、ハーブなどを育てて収穫の喜びをみんなで分かち合える「エディブルガーデン(食べられる庭)」だったのです。
また日本橋という街が育んできた文化を大事にしたいという思いもありました。
図鑑に載っているような植物をただ並べるのではなく、地域の皆さんが大切に育てている「路地裏園芸」をリサーチしました。この街でずっと愛されてきた植物たちこそが、日本橋の本当の在来種。そうして地域の人たちにとっても関係性のある場を目指したのです。
こうして屋上で大切に育まれたハーブが、1階のピザ屋で食材として使われ、ゲストの元へと届く。このFarm to Tableの心地よい循環によって、都会の真ん中にいながらにして土の気配を感じながら、人と自然がつながる場へとつながっていってほしいと願ってます。
かつて日本橋の路地裏に、植物を慈しむ人々の姿が当たり前の日常としてあったように、今度はこのホテルが起点となり、植物を介して地域の人々と新しい会話が生まれていく。そんな、「人間を介した温かい自然」が街の一部として溶け込んでいく風景を、ぜひ現地で五感を使って体験していただければ幸いです。
